プロローグ2 家城茜
平成11年。
特生自衛隊に所属する家城茜は千葉県館山港からある物資を輸送する任務に就いていた。
この物資は海上自衛隊によって海から引き上げられたものだった。
引き上げ作業には護衛艦数隻が随伴するという異例の態勢で行われた。
科学技術庁主導の元輸送されたこの物資には、今後の国防に関わるものとして大きな期待が寄せられていた。
物資の中身はゴジラの骨格。
海底には、オキシジェン・デストロイヤーによって完全に消滅したと考えられていたゴジラの骨がほぼ完全な状態で残されていたのだ。
この時の家城はまだ知らなかったが、科学技術庁は回収したゴジラの骨格を基に特殊な兵器を作り出そうと計画していた。
影響が懸念されていた台風13号が上陸する前に工程は進み、輸送は順調に行われた。
だが、家城はすぐさま90式メーサー殺獣光線車の管制車両に乗り込むことになる。
※ ※ ※
数日後、家城は臨時の査問会に掛けられていた。
戦闘中、ゴジラの熱線によって生じた土砂崩れを回避するため管制車両を転進させたところ、バックしてきた73式小型車に接触。小型車は崖から転落してしまい、そのままゴジラに踏みつぶされて乗員4名が殉職した。
家城は戦死者を生じさせた責任を問われていた。
「原因を聞いてるんだよ、家城3尉。君ほどの優秀なオペレーターが、なぜ73式小型車を確認できなかった?」
追求する幹部の声は、表面上は穏やかであったが、家城の口から家城を陥れる口実を得ようという意図が透けて見えた。
家城は優秀な隊員ではあったが、協調性に難ありとして上層部から目を付けられていた。入隊時から上官受けが悪く、同僚にも殊更家城を庇い立てようとする者はいなかった。
「恐怖でパニックにでもなったのか?」
そうだ。私は恐ろしくなったんだ。あの神話の中からそのまま出てきたような黒い影に恐怖した。そして、負けたんだ。戦死者はその結果だ。
「どんな処分でも、お受けします」
それは敗北宣言だった。
家城は実戦部隊から資料課へ転属となった。事実上の左遷だった。
こうして家城は、戦いのリングから降りたのだった。
※ ※ ※
平成15年。
4年の歳月をかけて、特生自衛隊は対
機龍のメインフレームには家城が”負けた”日に運ばれた初代ゴジラの骨格が用いられていた。
家城は対G兵器が開発されているという話を聞きつけた日から、一人孤独な訓練に明け暮れた。
査問に出席した幹部がわざわざ資料課まで来て「資料課の方があってる」などと嫌味を言ってくる有様だったから、既に実戦部隊から退いた家城が戦うことはない。
それでも、ゴジラへのリベンジを誓って体を動かし続けた。
戦うこと。それ以外に居場所を勝ち取る術を家城は知らなかった。
セミが鳴き、雪が舞う。こうした季節の巡りが幾周かしたころに、かつての上官だった富樫がやってきた。
富樫は厳格な男だったが、周囲との軋轢から不当な扱いを受けやすい家城を高く評価する数少ない人間だった。
「俺は、機龍隊への配属が決まった」
「きりゅう隊……?」
聞きなれない名前だった。
家城が追い求めた対Gロボット。機械の龍。それが機龍だった。
「機龍隊には、特自の精鋭を集める」
この男は、なぜわざわざそれを私に言いに来るのだろう。当てつけのつもりなのか。
かつての上官に対する失望感がじわじわと家城を苛んだ。
だが、その暗い感情は富樫の放った言葉に消し飛ばされた。
「リストにはお前の名も書いておいた」
一瞬、富樫が何を言っているのかがわからず目を見開く。
呆然とする家城の目を見て、富樫が語り掛ける。
「3年半は……長かったな」
家城は孤独ではなかった。ずっと、その努力を見守る存在がいた。
涙が出そうになったけれど、こらえて頭を下げた。
これはゴールではない。新たなスタートに他ならない。
こうして家城は、機龍の正オペレーターとして再び戦いのリングへと上がった。
※ ※ ※
家城は機龍内部の
一度目の出撃はゴジラの咆哮に感応した機龍のDNAコンピューターが暴走、ゴジラのような挙動を見せた機龍が八景島周辺を全壊させるという形で惨敗に終わった。
今この戦いは機龍には二度目の、家城にとっては三度目のリベンジマッチだ。
ゴジラの品川上陸に合わせて再出撃した機龍は、頭部に熱線を受けて遠隔コントロール用の受信機が破壊されていた。
このままでは機龍を動かすことはできない。
そこで家城は富樫や一柳が止めるのも聞かずに機龍に直接乗り込んだ。
事前に、メンテナンスブースからの操縦は人間に耐えられないほどのGがかかるため不可能だという説明は受けていた。それを承知したうえで、「ゴジラを倒す」という使命を果たすために操縦桿を握った。
仲間たちの決死の援護を受けつつ、アブソリュート・ゼロのチャージをしたまま機龍はゴジラに突撃した。
ゴジラを抱えたまま飛翔する機龍。その目的地は、海だ。
気を失っても不思議ではないほど強烈なGが襲う中、家城は絶叫しつつ操縦桿を離さなかった。
機龍が海に飛び込んだ瞬間、アブソリュート・ゼロの発射スイッチを押し込んだことまでは覚えている。
激しい衝撃と共に、家城の意識は途絶えた。
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